冷涼なる丘の誘惑 ─ Sta. Rita Hillsのピノ・ノワール

カリフォルニアと聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、燦々と降り注ぐ太陽と力強いジンファンデルかもしれない。しかし、そのイメージを軽やかに裏切ってくれるのが、Sta. Rita Hills(サンタ・リタ・ヒルズ)産のピノ・ノワールだ。

この地域は、太平洋から吹き込む冷たい海風と霧に抱かれる、カリフォルニアでも屈指の冷涼産地。海岸線と垂直に走る珍しい山脈地形が、ブドウ栽培に理想的な条件をもたらしている。

グラスを傾けると、まず目を引くのはその淡く美しいルビー色。光を透かすと、ほんのりとオレンジがかった縁が見え、まるで繊細な絹のドレスのような気品を漂わせる。

香りに顔を近づけると、完熟いちごやレッドチェリーの甘やかなアロマが広がり、乾いたタバコの葉や紅茶、わずかなスパイス、土のニュアンスが重なって奥行きを感じさせる。華やかというよりも、静かに語りかけてくるような香りだ。

口に含むと、その印象は一変する。しなやかな口当たりの中に、意外なほどしっかりとしたボディがあり、アルコールの高さが温かみとふくよかさを添える。酸はきれいに立ち、タンニンは細やかで舌に柔らかく溶け込むよう。全体の構成がよく練られており、果実味と骨格のバランスが見事だ。

このワインが真価を発揮するのは、食卓の上だ。フィレ・ミニョンとの相性は抜群で、赤身肉の繊細な旨味をしっかりと受け止めつつ、ワインの果実味と酸が料理を一段引き立てる。濃すぎず軽すぎず、幅広い食材とも好相性で、単体でもゆったりと楽しめる懐の深さがある。

Sta. Rita Hillsのピノ・ノワールは、ただの冷涼地ワインではない。エレガンスと力強さを兼ね備えた、今のカリフォルニアを象徴するような存在だ。グラスの中に広がるその世界は、まさに静かな誘惑。飲み手の感性にそっと寄り添いながら、記憶に残る一杯を約束してくれる。

評価(5点満点)
Brewer Clifton 2018 3D Sta. Rita Hills Pinot Noir 4点

投稿者 tosh